食堂かたつむり
奔放な母と折り合いが悪かった倫子は、十代半ばで家をでた。
祖母の元で料理に目覚め、大人になってからは料理人として働くようになる。
恋人との同棲も始め充実した日々を送っていたある日のこと、仕事場から帰宅すると部屋はもぬけのからになっていた。
倫子は家財道具ごと恋人に逃げられ一文無しになり、ショックのあまり声を失う。
経済援助を求めて帰省した倫子だったが、実家の離れで食堂「食堂かたつむり」を開き、紆余曲折ありながらも料理人としての仕事を再開することとなった。
しかし、病魔が倫子の母を襲い……?
酷評レビューが多い映画だったので逆に気になって鑑賞することにしました。
原作の小説は子供の頃に母に薦められて読んだはずですが、幼かったので内容はあまり覚えていません。
そのためほぼ映画だけを見た上での感想となります。
私の感想としては、低い評価をつけている人の考えも理解できますが、いいところもあったと思います。
ストーリーの大枠は一本筋が通っていて結構いいのではないでしょうか。
テーマは「愛について」というありがちなものですが、映画としては意外とありそうでない「母と娘の関係」をコンセプトに描いています。
コンセプト選びが若干良くなかった気がしないでもないですが(後述します)、ディテールが派手なだけで内容がない映画も多いなか、物語の核がしっかりある点はこの映画の長所と言えるのではないでしょうか。
(作品によっては、かっこいいアクションやホラー映画などの怖いシーンを楽しむことが目的のものもあるので、ストーリーがないから必ずしも駄目ということはないです)
最初は大仰な設定に感じられた失声症も「恋人に振られて愛を失う→母の愛に気づき心満たされる」ということを表現するためのメタファーとなっていることがわかり、最終的には上手いと感じました。
逆に良くなかった点は、表現や設定と物語の相性です。
実写映画でストーリーの核も母娘関係といった現実的なものなのに、謎にメルヘンな表現がされています。
特に随所で挿入される写真を切り貼りしたようなアニメーションと歌が不気味で、冒頭から鑑賞者をかなり細かいふるいにかけてしまったのではないでしょうか。
あと水鉄砲ベイビーとかバンジージャンプの事故で離れ離れとか、何かの喩えなのかと思いきやシュウ先輩もそう言っていて、そのまんまの設定なのかよと思ったり。
映画なので現実的じゃない描写は有りですが、あまりに現実離れした表現や設定が話に馴染んでおらずちぐはぐで見ている人に違和感を与えます。
願いが叶う食堂というファンタジーな設定があると思いきや豚を潰し始めるなど少々受け手を振り回しすぎではないでしょうか。
設定については原作通りなのかもしれませんが、表現媒体が違う以上小説と映画は別物で、映画に適した改変を加えるのが映画の制作者の腕の見せ所だと思います。
主演の柴咲コウさんも、柴咲コウさん自体は演技が上手で容姿も美しいのですが、キリッとした見た目が作品のメルヘンな部分とはミスマッチに感じられます。
あとエンディングテーマがペットセメタリーの次くらいに映画に合ってないと思います。
もう一つ良くなかった点は、ストーリーの大枠はいいと思うのですが、細かい部分が雑だと感じました。
いつの間に和解したのか結婚式に参列する虫を入れた同級生、何故かお茶漬けに感極まるネオコン、丁度いいタイミングでフクロウの正体に気づく倫子など取ってつけたような展開が見受けられ、幹は良くても枝葉が貧弱な印象を受けます。
最後に、これは一つの作品としては良くない点ではありませんが、商業的には良くなかったのは、「母と娘の関係」を主として描いたことです。
まず、多くの映画は男性が主体なので女性が主体であることは不利です。
さらに女性が主人公の場合大抵は男性との恋愛映画になるのに対し、食堂かたつむりでは男性は重要な局面には関わってきません。
男性のみならず女性も男性が主体の物語に慣れてしまっているので、この映画を酷評している人の心にはレビューで触れていなくても女性が主体であることへの反感があるのだと思います。
母と娘の関係性を描くのは作品としては悪くないのであまりネガティブな方面で挙げたくないのですが、人々の歓心を得ることを考えるなら商業的には良くなかったと言えると思います。
しかし、食堂かたつむりのストーリーは刺さる人には刺さるようです。
冒頭でも述べた通り私は母に原作を薦められたのですが、その後もたまに図書館のシールが貼られた原作小説が家に置いてありました。
母は食堂かたつむりを何度も読み返しているようです。
私が子供の頃、母から祖母のエピソード(あまりよろしくない内容)が語られることが幾度かありましたが、そういった母娘関係に思うところがある人はこの物語に共感しやすいのかもしれません。